寄文「凍頂烏龍茶」

台湾で作る烏龍茶にはとても素晴らしい物がある。今では世界で最も標高が高い茶園で作られる大禹嶺(2565m)などが有名です。ギネス世界記録では、インドのニルギリ地方のコーラクンダー茶園が標高2800mで世界一高いと記録されています。お茶やコーヒーの世界では標高が高い方が朝晩の寒暖差や紫外線の強さから美味しいお茶やコーヒーが作れます。カカオまで作られるようになってます。
そんな高山でお茶を意図的に作る奔りになったのは「凍頂烏龍茶」ではないでしょうか。そして、この凍頂烏龍茶も中国の皇帝に献上されたことがあります。ここでも筆者は、皇帝に献上されたお茶とはどんなお茶だろうと興味を持つきっかけになりました。
烏龍茶の味にはかなりの幅があります。烏龍茶とは六大分類茶類では青茶になります。お茶の種類を分けるとき「発酵をさせない。完全な酸化発酵をさせる。微生物による後発酵がある。」など、発酵によって分類します。烏龍茶である青茶は「半発酵茶」です。初めての方は、この“半”という文字を見て半分だけ発酵してる。50%だけ発酵していると考えるイメージする人が多いですが。正確には不発酵茶である緑茶と全発酵茶である紅茶との間です。この“半”は“部分”という意味で、烏龍茶とは発酵度合にかなり幅があるお茶の分類です。緑茶に近い包種茶から、紅茶に近い東方美人までバラエティーに富んでます。
凍頂烏龍茶の発酵度は文山包種から木柵鉄観音の間です。発酵の軽重度だけでなく製茶時の乾燥の工程に、火入れや焙煎のような作業があります。現代台湾では、この焙煎も軽い茶葉から重い茶葉まであります。
中国茶審評用語で「幽香」があります。これは凍頂烏龍茶の味わいを一言で表した用語です。筆者の個人的に良いと思う凍頂烏龍茶は芳醇なマスッカトを思わせるものです。伝統的な凍頂烏龍は龍眼(ライチみたいな南国のフルーツの木)の薪で乾燥させます。この時に龍眼の香りがつきます。ラプサンスーテョン(中国の代表的な紅茶)は松の薪で乾燥させます。日本の緑茶にも松の薪を使って乾燥させる力強いお茶があります。お茶の中にはブナや樫、楠など薪の指定があるお茶もあります。ただ、凍頂烏龍の龍眼の薪の場合は、燻しの中に軽やかな甘みがあります。製茶の乾燥工程でこの燻香が茶に宿ります。近年はこの伝統的な製法は人気が薄れ、軽い乾燥の凍頂烏龍茶が人気です。古式や伝統式の龍眼木炭焙の凍頂烏龍はボディが重厚なお茶に仕上がります。
サントリーの烏龍茶とはかなり味わいに違いがあり日本人の感覚ではフルーティー感が強くなった煎茶と例えれます。
同じような味わいの系統のお茶に中国大陸の安渓鉄観音があります。字のごとく、鉄観音の品種から製茶されています。こちらの烏龍茶は清香濃香が特徴ですが、あえて凍頂烏龍茶とだけで比較すると安渓鉄観音は柑橘系、凍頂烏龍茶はフルーツ系と表せれるでしょう。

凍頂烏龍茶の歴史
約180年前(1855)の清代末期※1から始まります。台湾出身の林鳳池という人物が科挙に合格した記念として福建省から持ち帰り台湾の南投県鹿谷郷に植えました。当時、科挙に合格するには、その高い見識や知識のみならず、少なからず費用がいりました。それを林鳳池の一族や地域の人たちが、協力してお金などを出し合ったと伝わっています。林鳳池の先祖は福建出身で祖籍がある福建で科挙の試験を受けることになります。このような口伝から戸籍の文化や福建省を出た華僑にも一族を大切にする文化をよくわかります。林鳳池が科挙に合格したのが咸豊5年(1855年)36歳でした。文献や口伝によると、彼が持ち帰った茶樹の苗木が36本と伝わっています。当時、科挙に合格するのは大変難しく、36歳はほぼ最年少でした。それを記念して合格した時の年齢と同じ数の苗木を持ち帰ったのではないかと筆者は推測してます。さて、36本の苗木は、科挙を受けるのに協力してくれた方へのお礼に分けられました。林鳳池の下にはそのうち2本の苗木のみが残りました。36本のうちほとんどは根付かず、12本のみが定着できました。凍頂には、人知れず樹齢150年を超える茶樹が今でも何本かあります。
適応した12本から凍頂の南投県鹿谷郷は、お茶の畑が広がり、烏龍茶が作られるようになりました。福建省から持ち帰ったお茶の品種またはそこから改良された品種が現代台湾でも栽培されるお茶の多くを占めています。さて、優秀な林鳳池が動乱期の清代末期、再度、朝廷から呼ばれてまた上京する折に、故郷で作ったお茶の出来が良く、そのお茶を皇帝に献上したと伝わっています。皇帝はそのお茶の味を愛したとも伝わっています。ただし、献上した皇帝が何代目だったか、正確に伝わってません。科挙に合格した時の皇帝が咸豊帝※2(清朝第9代皇帝)ですから、実質的には同治帝光緒帝まで考えられます。

※1日本は幕末に突入する直前。江戸幕府13代将軍徳川家定の時代。日米和親条約直後のとき。
中国は清朝も清朝皇帝9代咸豊帝、アロー戦争直前のとき。
※2咸豊帝は、有名な西太后が愛した夫です。

凍頂の茶樹の品種
凍頂のある南投縣鹿谷郷に適応した12本のお茶ですが、これは福建省の青心烏龍茶品種だと考えられています。凍頂烏龍茶以外にも台湾全体で作られるお茶の40%が今でも青心烏龍です。伝統的な本来の凍頂烏龍茶に使われる主な茶葉は青心烏龍の品種で乾燥の工程では竜眼木炭を使います。しかし、茶業の産業化や日本統治時代も含めた時代の変遷、消費者のニーズから、現在では「凍頂烏龍茶と冠したお茶」や「凍頂で栽培されるお茶」の品種の80%は「四季春」になりました。凍頂では他に「金萱」もあります。金萱はミルキーの匂いがあります。凍頂四季春や凍頂金萱として産地+品種のネーミングで販売されています。冒頭で福建省の有名なお茶で安渓鉄観音を比較に出しました。安渓鉄観音の品種は「鉄観音」で台湾で鉄観音の品種を使っているのは木柵鉄観音だけです。

名前の由来
「頂上」の意味で、中国語「崠頂」と言い表します。この「崠」と「凍」が同じ発音なので、皇帝が愛でた「崠頂」の烏龍茶が「凍頂烏龍茶」となったと言われています。もう一つ伝わっているのが、凍頂山は厳冬期でも道が凍結することはないですが、その険しい道程や年中雨や霧が多く滑りやすいため、山を登る際には細心注意が必要でした。台湾語で、足のつま先や指まで力を入れて踏ん張る意味を「凍脚尖」と言います。茶畑に行くのに「凍脚尖」して「山頂」に向かう山で「凍頂山」と言われるようになりました。

凍頂山の標高
「凍頂」は杉林渓茶区に在り、凍頂で一番の標高は850mとされています。実際には丘のような感じで「山」とは思えません。麒麟潭を囲む低い山が海抜600m前後です。凍頂を含む杉林渓茶区には、古坑茶区550mから草凹仔茶区1900mまで茶で有名な16の産地があります。凍頂はその1つで最も有名です。

産地として凍頂、商品名としての凍頂、製茶方法としての凍頂
厳密な産地や品種、製法の表示ではなく、商慣習的に消費者受けの良い形を冠して流通していた経緯から、今でも何が凍頂烏龍茶か言い切れないところがあります。それは、近年人気の台湾高山茶は、ほぼ凍頂式製法で行なわれています。また、凍頂周辺で栽培されている品種の通称が「凍頂烏龍」であることから、品種としての凍頂烏龍を使用して作られたお茶を凍頂烏龍茶とすることもあります。商品に名に「凍頂山烏龍茶」とあれば、それは麒麟潭の周辺で700m以上で栽培された青心烏龍品種で凍頂式製法で作られたお茶の可能性が高いでしょう。また、凍頂の製茶技術が高く評価されています。分業化も進み、茶農家や茶業界や農會(日本で言う農協)とは別に、製茶の乾燥作業専門の焙煎師がいます。茶葉の採摘時期に応じて茶葉を追うように焙煎師が段々と茶葉畑や製茶場を移動する情景が風物詩になっています。

高山茶の定義
厳密な定義はありません。基本的には標高の高い茶畑で栽培されたお茶を高山茶と言う。標高は700m以上か1000m以上だと考えられています。ただし、この標高、凍頂烏龍茶を作っている産地とほぼ一致します。凍頂を基準にそれより高い標高で栽培されたお茶を高山茶としたようにも考えられます。他には高山茶とは凍頂式製法で作られた茶葉にも用います。更に、高山茶でよく使われる品種を通称「高山烏龍」と言います。この高山烏龍で作られたお茶を高山茶とすることもあります。更に、低地でも高山茶特徴を有した高山茶風味のお茶を高山茶として販売することがあります。

凍頂のブランド力
凍頂烏龍茶は中国皇帝が味を愛したように美味です。台湾でのお茶の栽培は、港口茶に次いで2番に古いです。長い歴史の中で、その茶樹の栽培方法や製茶方法、茶商における保管方法などどれも技術が高く素晴らしいです。なのでその方法が他の台湾のお茶の産地にも伝播していきました。また、凍頂での600mから850mの標高の変化でもより高い標高の方が美味しかった経緯から、それが台湾における茶業のトレンドになりまた。それは、ブランド力よりも標高主義になりました。凍頂烏龍茶が作ったこの時流は、現在、凍頂のブランドを凌ぐ勢いがあります。大禹嶺、梨山、阿里山、杉林渓などです。
標高だけなく、貴重なお茶を「熟成させる意味※3」でも「消極的な意味※4」でも長期に保存した農家や茶商さんが、毎年手間をかけた烏龍茶が世の中に流通します。これが、黒烏龍茶や老茶と言われるビンテージのお茶の流れも作りました。

※3お茶を熟成させると「良いお茶は更に良く」「悪いお茶は更に悪く」なると言われています。
※4現在ほど保存技術が発達していないときに、製茶後に定期的に蔵から茶葉を出し、焙煎して火を入れることによって劣化を防ぎます。

メチル化カテキンと凍頂烏龍茶
アレルギー抑制に非常に有用とされている近年話題のメチル化カテキンです。日本ではべにふうきに含有量が多いと有名です。お茶の品種としてべにふうきの次に含有量が多いのが四季春です。せっかくの抗アレルギーのべにふうきですが、普通に栽培製茶すると美味しくありません。また、べにふうきは紅茶の推奨品種で、本来、緑茶には向きません。これまた残念ながら、メチル化カテキンは紅茶に製茶するとほとんど茶葉中に無くなりべにふうきでも紅茶では抗アレルギーの期待はできません。緑茶にすると不味い。そこで、台湾の高山茶です。メチル化カテキンを多く含む四季春も青心烏龍から品種改良されてます。四季春の系統の祖品種である青心烏龍もまたはメチル化カテキンを多く含みます。さらに、青心烏龍から改良された品種にもメチル化カテキンが多く含む品種が多いです。
四季春が含有量が二番ですが、その栽培や製茶方法にようって、べにふうきに負けないぐらいメチル化カテキンを含んでいます。しかも、美味しいです。アレルギーが気になる方は、一度、台湾の高山茶を飲む習慣をオススメします。

台湾高山茶三大茶区
日本人の口と嗜好にも合う高山茶です。その台湾での代表的な産地は3つ。杉林渓茶区以外に梨山茶区(北奇莱茶区1800mから大禹嶺茶区2650m)、阿里山茶区(出水坑茶区700mから頂湖茶区1700m)。

おまけの小噺
四季春は、審評では草香滋味と言われ、青心烏龍か青心大冇が台湾の北側木柵地区で自然交配したのを茶農家がたまたま発見した品種と言われている。木柵地区では鉄観音が栽培されているので、鉄観音の系統も遺伝的に含まれてる可能性も高いかも知れません。
茶樹品種改良の父・呉振鐸博士が改良した品種が下記の2つ。
金萱(台茶12号)は父系「硬枝紅心」母系「台農8号」との交配品種である。茶水が黄金なので「金」、特徴はそのミルクやバニラを彷彿とさせる乳香(甘いの意味がある「萱」)である。金萱は博士の母の名前から名付けたとも言われています。
翠玉(台茶13号)は父系「台農80号」母系「硬枝紅心」と金萱と兄弟品種です。金萱の乳香に対して、翠玉はジャスミンを彷彿とさせるグラスフラワーのような爽やかな香りと、名前の如く発色の良い緑色の水色が特徴です。翠玉も博士の祖母(母方)の名前から名付けたとも言われています。

今回は、触れてませんが、台湾を代表するお茶に東方美人があります。この東方美人は新竹県で栽培製茶され、品種は青心大冇です。その茶は自然と共生しています。いつ発生するか分からない。ウンカ(チャノミドリヒメヨコバイ)が茶葉の樹液をすいます。茶樹はその身を護ろうとファイトアレオキシンを生成します。このファイトアレオキシンの中の1つにテルペノイドと言われる物質があります。これがフルーティーに感じます。また、ファイトアレオキシンは製茶工程で酸化発酵されます。このとき、ファイトアレオキシンはマスカットのような香りの物質もできるとされています。
近年、この不思議な東方美人の製茶方法を応用した紅茶が台湾の日月潭で作られています。蜜香烏龍や貴妃です。基本、茶はベストシーズンに採摘するとそれ以外のシーズンはランクが落ちます。夏場に採摘したお茶は半値以下になることも珍しくありません。しかし、このいつ発生するか分からないウンカは、夏場が多いです。ベストシーズンに採摘したら、ウンカの発生まで待ちます。東方美人(烏龍茶は部分発酵)の技術を紅茶の完全発酵まで工程をします。強い火入れと完全な発酵でも夏の丈夫な茶葉は耐えます。すると、蜜香烏龍や貴妃の特徴である甘い香りが強い紅茶ができます。
日月潭には、大陸から伝わったお茶がいつの間にか野生化して、紫の新芽が出る「魚池紫芽原生種」があります。この紫色は葉の成長に伴って分からなくなります。
紫色の原因物質は、アントシアニジン(別称シアニジン)です。アントシアニジンに糖や有機酸が結合したものが、目に良いと有名な赤紫色のアントシアニン(別称シアニン)です。アントシアニンはアントシアニジンと比べて水溶性が上がり安定化します。
アントシアニジンがいくつか結合してプロアントシアニジンになります。プロアントシアニジンはブドウ種子ポリフェノールです。
プロアントシアニジン+2つのオキソニウムイオン(水素イオン)→
アントシアニジン+カテキンになります。
お茶にカテキンが生成される理由が理解できます。また、アントシアニジンは味や香りは草のような感じです。植物由来の物質なので不思議はありませんが、化学物質名ばかり聞くとその背後を忘れそうになります。

どうしても飲みたくなった方へ
烏龍茶の品質と値段はピンキリです。値段と品質がつりあわないことも多々あります。多少高くても信頼できるショップで買うしかありません。そんなショップを見分けるにも一苦労します。
筆者が中国茶を習ったところで、先生達が経営してる信頼できるショップをご紹介。
東京表参道「遊茶」台湾烏龍茶の通販WEB
(2019.12.24改編)